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宮本倫和 和みの極み

宮本倫和 和みの極み > りんの連続小説 第五話
2010年6月30日(水)

りんの連続小説 第五話

男には理由は必要ない。

以前なら通りを行く人の幸せそうに笑う表情を見るのが辛かった。その幸せは束の間の出来事で必ず終わりが来る、死に向き合わなければならない時にはそのほとんどが消え失せてしまう。そして死神である自分を呪ってしまう。何より自分の運命を呪ってしまう。自分が見たかったのは知らぬ人間の笑顔ではない。一番守りたい人の笑顔は記憶の中で日に日に薄れて行くのみである。流れる時間すら呪いそうになる。全てが意味のない様に感じられていた。考えだすとキリがない。やがて男は考える事をやめた。

そんな中、男は通り過ぎる人達の表情を見ながら街をさまよっていた。明らかに一人の老婆との出逢いが男を変えた。

束の間の幸せの先、例え通り過ぎる人の表情が今幸せを感じていなくてもいつか老婆の様に旅立つのかもしれない。刹那の幸せが続くかは問題ではない。その先にあるものを男は探して歩いているのかもしれない。なぜ自分が嫌いな街を彷徨っているか。
その理由すら男には必要なかった。

ふと立ち止まり見渡す街は男が知る景色とは変わっていた。いったいどれだけの時間が過ぎたのだろう。積もった時間は余りに膨大すぎて振り返る事も出来ない。絶え間無く、少しずつ、確実に変わっていくものがある。そして変わらないものもある。変えられるものと変える事が出来ないもの。眼に映る街の表情だけではない、その裏側があることも知っている。変わり続ける街並みと変われない自分。男は自身が死神である事を痛感しながらまた歩き出した。

そしてまた幾年月が流れた。

その日も強い雨の中、男は小さな橋の上に立っていた。通り過ぎる人達の足音を聞きながら。季節は夏。強い雨のせいか名も知らぬ鳥達の姿は見えない。男は眼を閉じ、ただ聞こえてくる音を感じていた。雨の音、足音、傘に雨がかかる音、話し声。一瞬、雨がやんだ気がした。
すると自分の横に一人の女が立っていた。男に傘を差し出して。

驚いた表情で男は女の眼を見つめた。すると女も負けじと驚いた顔で男を見つめていた。
「あの、傘どうぞ。」
男は何が起こったのか理解できない。
「あの…雨の日はずっとここにいるんですか?」
女は片方の眉を上げ男に問いかけた。
その瞬間、男の脳裏にある光景がよみがえった。
雨の中、傘を差し出した少女の事である。断続的に流れていたかの様に思えていた時間が男の中で繋がった。少女は死期が近い為に男が見えていたのではなかった。少なくとも今また自分に傘を差し出しているのである。

~第六話へ続く~